デーリィたぬき通信

たぬきがウシと奮闘するブログ

読了▼「笹の墓標」(森村誠一 著)

きっかけは、先日の道北出張時の車中での会話だった。
たしか、朱鞠内湖の方向を示す青看板があったんだと思う。

先輩が「朱鞠内湖といえば、強制労働だね」と言った。
朱鞠内湖=強制労働という共通認識が当たり前であるかのように話しかけられたけど、初耳だった。強制労働?
聞けば、開拓の時代に無理やり連れてこられた労働者たちが、過酷な環境下で延々と労働させられ、ダムを採掘中に息絶えた労働者がいても、お構いなしに上からコンクリートを流し込んだという。
私が驚いていると、先輩はさらに続けた。

「この話は結構有名で、森村誠一が本にもしているよ。笹のモヨウっていうんだけど」

まず森村誠一を知らない。
しかし、活字中毒な私としては、与えられる活字はどんなものでも読んでみたい。映像はてんでダメだが文章なら多少ヘビーでも読むことができる。
へえー読んでみたいです、今度本屋で探してみます、と言っていたら、貸してくれることになった。
なんでも新聞の書評欄に載っていて、廃線や廃墟が好きな先輩は興味をそそられ読んでみたそう。
貸してもらってはじめて、タイトルが「笹の模様」ではなく「笹の墓標」であることに気づいた。笑

ちなみに朱鞠内湖はこんなところにある。

背表紙の内容紹介は以下のとおり。

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第二次世界大戦中、北海道のダム建設に駆り立てられ、多くの朝鮮人・日本人の強制連行労働者が犠牲となった。
その遺骨発掘作業は、今も日韓のボランティアの人々の手で続けられている。本書は、この実話をもとに描かれた社会派推理小説の傑作である。
遺骨発掘作業に参加した神沼公一郎は、その現場で腐乱死体を発見する。その死体は、故郷を捨て上京した神沼の元恋人の同僚だった。都会の闇に葬られた若者と交差する時間の闇。事件の背後に見え隠れする、強制労働という負の歴史に関わった者たちの存在。事件は時空を超えて、現代の暗部を白日の下にさらけだす。
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以下ネタバレあり。

小説は50数年前、いわゆるタコ部屋で強制労働させられていたふたりの男のシーンから始まる。
このシーンは数ページで終わり、残りはすべて現在の話になるが、冒頭の場面はずっと物語のベースとなる。
過去と現在のほかにも、この小説にはさまざまな「対比」が描かれている。
男と女、雇う側と雇われる側、日本と韓国、若者と老人、田舎と都会。
作中ではふたつの殺人事件が描かれる。いっけん無関係にみえたふたつの事件は実は 強制労働 という軸で深く結びついていて、、というお話。
殺人事件の犯人は強制労働うんぬんというよりはただ権力に屈しただけのように思えるけど、その権力や人間関係も紐解けば強制労働に回帰する。
婚約者を亡くしたふたりが登場するのだが、お互いの心の動きがわりとアッサリしていて、そんなもの?となった。
まあどちらも婚約者に捨てられているので、惹かれあうのも当然なのかもしれない。

笹の墓標。
強制労働の犠牲者たちは、葬式をあげてもらうことも、満足に位牌を作ってもらうことさえできず、朱鞠内湖にある雑木林に埋められている。
唯一の墓標となるのが、ササだということだ。
私が昔、冬でも山の中に馬放牧しているところでは、馬たちが一生懸命雪の中からササを掘り起こして食べていた。冬に仕留めたシカのお腹にはササが入っているとも聞く。
草が雪に埋まる冬、草食動物の唯一の食料ともいえる、ササ。
そんなひもじさの象徴のような植物が唯一の墓標と聞くと、その場所のもの寂しい雰囲気が想像できる。
当時犠牲者は近くのお寺の本堂に1日安置されたのちに埋葬されたらしい。
朱鞠内湖付近には犠牲者を祀る碑もあり、遺骨発掘作業は今も?続いている。
朱鞠内湖だけでなく、猿払や芦別でも同様のワークショップは行われているらしい。
私たちが住んでいるこの地は、多くの人の血と汗、涙によって作られているんだな。

途中、「某西独大統領の演説を模したような」という表記があり、気になって調べた。
これは、1985年5月8日、ヴァイツゼッカー西ドイツ大統領が行った「荒れ野の40年」と題した演説のことを指す(小説最後に引用があった)。
ドイツの敗戦40周年にあたり、連邦会議で話されたものである。
過去のナチス・ドイツによる非人道的な行いについて詳細に回顧し、以下の部分が有名なようである。

「…過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです」

うーん、立派な言葉すぎて、コメントしようがない。
「あの時は若かったし」「あの時は疲れてたし」「あの時は時間があったし」「あの時は機嫌悪かったし」
自分へは言い訳し放題だけど、それを咎めてくれる人は誰もいない。

読み応えのある本だった。
ちなみに、本編ではタコ部屋での生活にはわずかなページしか割かれていないが、「タコ部屋 まとめ」で検索すると2ちゃんねるのまとめが出てくる。
恐ろしいことに、タコ部屋は「負の遺産」ではなく、今も続いているようだ(2ちゃんねる発の情報ではあるけれど)。

笹の墓標 (小学館文庫)

笹の墓標 (小学館文庫)